料理写真で一番大切なのは、「美味しそう」という印象を与えることです。
実際に美味しい料理でも、写真の色が悪いと食欲をそそりません。逆に、適切なレタッチで「食べたい!」と思わせる写真に仕上げることができます。
食品写真レタッチの基本
料理写真って、普通の写真と何が違うんですか?
「美味しそう」という感情に訴えかける必要があるのが大きな違いです。色の印象が売上に直結するので、暖色系の色味や、ツヤ・質感の表現が特に重要になります。
食品写真で重視するポイント
- 色温度 — 暖色系で美味しそうに
- 彩度 — 食材の色を鮮やかに
- ツヤ・テリ — 新鮮さ、ジューシーさを表現
- シャドウ — 立体感を出しつつ暗くなりすぎない
避けるべき表現
- 青みがかった色味(不健康な印象)
- 彩度が低すぎる(鮮度が悪く見える)
- 暗すぎる影(料理が見えない)
- 不自然な色(加工感が強すぎる)
色温度の調整
なぜ暖色系が美味しそうに見えるか
人間の脳は、暖色系(オレンジ・赤・黄色)を「食べ物の色」として認識しています。
- 焼き色 → 香ばしさ
- オレンジ → 熟した果物
- 赤 → 新鮮な肉、トマト
- 黄色 → 卵、チーズ
逆に、青みがかった色は「腐敗」や「冷たさ」を連想させ、食欲を減退させます。
色温度の調整方法
Camera Raw / Lightroom の場合
- 色温度スライダーを暖色方向(右)へ
- 目安:+500〜+1500K程度
Photoshop の場合
- トーンカーブでブルーチャンネルを下げる
- または「フォトフィルター」で暖色系を適用
暖色に寄せすぎると、不自然なオレンジ色になります。白い皿やテーブルクロスを基準に、白が自然に見える範囲で調整しましょう。
彩度と鮮やかさ
全体の彩度調整
彩度を上げると食材の色が鮮やかになり、新鮮な印象を与えます。
推奨設定
- 彩度(Saturation):+10〜+25
- 自然な彩度(Vibrance):+15〜+30
「自然な彩度」は肌色などの中間色への影響が少なく、食材の色だけを効果的に強調できます。
色別の調整
特定の色だけを調整すると、より効果的です。
| 色 | 調整方向 | 効果 |
|---|---|---|
| 赤 | 彩度↑ | 肉、トマト、苺が鮮やかに |
| オレンジ | 彩度↑ 明度↑ | パン、揚げ物の焼き色強調 |
| 黄色 | 彩度↑ | 卵、チーズ、レモン |
| 緑 | 彩度↑ 色相調整 | 野菜を新鮮に(黄色寄りは避ける) |
緑の野菜は特に注意が必要です。黄色に寄ると「傷んでいる」印象になるので、青緑寄りの鮮やかな緑を目指しましょう。
ツヤとテリの表現
ツヤが重要な理由
料理の「ツヤ」や「テリ」は、ジューシーさ・新鮮さ・美味しさを視覚的に伝えます。
- ステーキの肉汁のツヤ
- 照り焼きのタレのテリ
- サラダの野菜についた水滴
- フルーツの瑞々しさ
ツヤを強調するテクニック
1. ハイライトの強調
- トーンカーブでハイライト部分を持ち上げる
- 白レベルを少し上げる
2. コントラストの調整
- 明暗差をつけてツヤを際立たせる
- ただし影が潰れないよう注意
3. 部分的なドッジ
- ツヤの部分だけを覆い焼きで明るく
- 不透明度5〜10%で少しずつ
ツヤを足すレタッチ
撮影時にツヤが足りなかった場合、レタッチで追加することも可能です。
- 新規レイヤーを作成
- 白いブラシでツヤを入れたい部分を塗る
- ぼかし(ガウス)を適用
- 描画モードを「スクリーン」または「オーバーレイ」に
- 不透明度を調整
シズル感の演出
シズル感とは
「シズル感」とは、食品の五感に訴える臨場感のことです。
- 湯気が立ち上る熱々感
- 肉汁が滴るジューシーさ
- 揚げたてのサクサク感
- 冷たいドリンクの水滴
レタッチでのシズル表現
湯気の追加
- 別撮りの湯気素材を合成
- またはブラシで湯気を描く
- 描画モード「スクリーン」で合成
水滴の追加
- 水滴ブラシで冷たさを演出
- 光の反射も忘れずに
湯気や水滴の合成は、不自然になりやすいので注意が必要です。光の方向や背景との馴染みを確認しましょう。
背景と食器の処理
背景の色補正
料理を引き立てるために、背景の処理も重要です。
- 明るい背景:清潔感、カフェ風
- 暗い背景:高級感、レストラン風
- 木目背景:ナチュラル、温かみ
食器の調整
- 白い皿は純白に近づける(黄ばみを取る)
- 汚れや指紋は除去
- 不要な反射は抑える
テーブルのゴミ取り
撮影時に気づかなかった細かいゴミやホコリは、スポット修復ブラシで除去します。
用途別のレタッチ方針
飲食店メニュー
目的:注文してもらう
- 実物とかけ離れすぎない範囲で魅力的に
- 量感が伝わるように
- 店内照明での見え方を考慮(印刷はやや明るめに)
ECサイト・通販
目的:購入してもらう
- 商品の詳細が分かるクリアな仕上げ
- 複数カットの色味を統一
- 白背景の場合は背景を純白に
SNS・広告
目的:目を引く、シェアされる
- インパクト重視でやや派手めに
- トレンドの色調を意識
- スマートフォンでの見え方を確認
| 用途 | 彩度 | コントラスト | 加工の程度 |
|---|---|---|---|
| メニュー | 控えめ | 標準 | 自然に |
| EC | 標準 | やや高め | クリアに |
| SNS | やや高め | 高め | 印象的に |
実際のワークフロー
基本的な手順
RAW現像(RAWの場合)
- 露出、色温度の基本調整
- レンズ補正
全体の色調整
- 色温度を暖色寄りに
- 彩度・コントラストの調整
部分補正
- 食材ごとに色の微調整
- ツヤの強調
レタッチ
- ゴミ・汚れの除去
- 不要な反射の除去
最終調整
- 全体のバランス確認
- シャープネスの適用
よくある修正ポイント
- 肉の色が悪い → 赤〜オレンジの彩度を上げる
- 野菜がくすんでいる → 緑の彩度を上げ、黄色味を抑える
- 全体的に暗い → 露出を上げ、シャドウを持ち上げる
- ツヤがない → ハイライトを強調、部分的にドッジ
よくある質問
Q. 実物と違いすぎるとクレームになりませんか?
飲食店の場合、過度な加工は「写真と違う」というクレームにつながる可能性があります。「実物の良さを引き出す」程度にとどめましょう。
Q. RAW撮影していない場合は?
JPEGでも基本的な調整は可能です。ただし、色温度の大幅な変更や暗部の持ち上げは画質劣化につながるため、限界があります。
Q. スマートフォン撮影の写真でも効果はありますか?
あります。特に色温度と彩度の調整は効果的です。ただし、元の画質が低い場合は過度な加工は避けましょう。
まとめ
食品写真のレタッチは、「美味しそう」という印象を作り出す作業です。
- 色温度:暖色系で食欲をそそる
- 彩度:食材の色を鮮やかに
- ツヤ・テリ:ジューシーさ、新鮮さを表現
- シズル感:五感に訴える臨場感
- 用途に応じた調整:メニュー、EC、SNSで方針を変える
適切なレタッチで、料理の魅力を最大限に引き出しましょう。