結婚式で3000枚、企業イベントで5000枚、学校行事で8000枚。
大量撮影の後に待っているのは、膨大な写真の選別と処理。1枚1枚確認していたら、納品まで何日もかかってしまいます。
この記事では、大量納品を前提としたプロのワークフローを紹介します。AIツールの活用から、定番ソフトの使いこなしまで、実践的なテクニックをお伝えします。
大量納品ワークフローの全体像
従来のワークフローの問題点
カリング(選別)に時間がかかりすぎる
- 5000枚の写真を1枚2秒で見ても、2時間半以上
同じ作業の繰り返しが多い
- 露出補正、ホワイトバランス、書き出し設定…
納品形式がクライアントごとに異なる
- Web用、印刷用、SNS用で別々に書き出し
効率化されたワークフロー
| 工程 | 従来 | 効率化後 |
|---|---|---|
| 取り込み | 30分 | 30分(変わらず) |
| カリング | 2〜3時間 | 10〜20分 |
| 基本補正 | 2〜3時間 | 30分〜1時間 |
| 個別調整 | 1〜2時間 | 1〜2時間(変わらず) |
| 書き出し | 1時間 | 15分 |
効率化のポイントは「カリング」と「基本補正」。この2つを最適化するだけで、作業時間は半分以下になります。
AIカリングツールの選び方
2025年現在、AIカリングツールは急速に進化しています。
主要ツールの比較
| ツール | 特徴 | 料金体系 |
|---|---|---|
| Aftershoot | カリング+編集+レタッチ | 月額約4,000円〜 |
| Imagen AI | スタイル学習が強力 | 従量課金(1枚約5円〜) |
| Photo Mechanic | 手動だが最速 | 買い切り約20,000円 |
| Narrative Select | AI補助+手動判断 | 買い切り約15,000円 |
| Lightroom Assisted Culling | 標準機能として追加 | CC契約に含む |
Aftershoot:大量撮影の定番
ウェディングフォトグラファーの間で最も普及しているツールです。
特徴:
- 800枚を4分でカリング(実測値)
- ピンボケ、目つぶり、重複を自動検出
- 学習機能で使うほど精度が上がる
- オフライン動作(クラウドに写真を送らない)
AIが選んだ写真、本当に信用できますか?
最初は心配になりますよね。でも、使い続けるとAIが自分の好みを学習します。90%以上の精度になったら、「AIが落とした写真をざっと見る」だけで十分。残り10%を確認する方が、全部見るより圧倒的に速いです。
Photo Mechanic:手動派の最終兵器
AIを使わない派にも、効率化の選択肢はあります。
Photo Mechanicは「世界最速のファイルブラウザ」と呼ばれるソフトです。
なぜ速いのか:
- 画像の読み込みが圧倒的に速い(RAWでも瞬時にプレビュー)
- キーボード操作だけで高速カリング
- メタデータの編集が爆速
- Lightroomとの連携がスムーズ
実際の使い方:
- Photo Mechanicで撮影データを取り込み
- キーボードで高速カリング(採用: T、不採用: 1など)
- 採用写真だけをLightroomにインポート
Lightroomは高機能ですが、プレビュー生成が遅いのが弱点。Photo Mechanicで先に選別することで、Lightroomに読み込む枚数を減らし、全体の作業時間を短縮できます。
カリングの実践テクニック
2パス方式で効率化
大量の写真を一度に完璧に選ぶのは難しい。そこで「2パス方式」を使います。
1パス目: 高速フィルタリング(1枚0.5秒)
- 明らかなNGを弾く(ピンボケ、目つぶり、構図ミス)
- 迷ったら残す
- 5000枚 → 1000枚程度に絞る
2パス目: 丁寧な選別(1枚2〜3秒)
- 残った写真から最終セレクト
- 類似カットから1枚を選ぶ
- 1000枚 → 300〜500枚に絞る
1パス目で「完璧に選ぼう」とすると、判断に迷って時間がかかります。1パス目は「ゴミを捨てる」感覚で、2パス目で「宝を選ぶ」と考えると効率的です。
キーボードショートカットの設定
マウスでポチポチしていては時間がかかります。
Lightroom推奨設定:
- P: ピック(採用)
- X: リジェクト(却下)
- →: 次の写真
- ←: 前の写真
- 1〜5: レーティング
Photo Mechanic推奨設定:
- T: タグ(採用マーク)
- 1〜9: カラーラベル
- Enter: 次の写真
右手でマウス、左手でキーボードという配置が基本。カリング中は左手をキーボードから離さず、ショートカットだけで操作することを意識してください。
基本補正の自動化
プリセットの活用
同じ条件で撮影した写真には、同じ補正が効きます。
作るべきプリセット:
- 屋外晴天用
- 屋外曇天用
- 屋内タングステン光用
- 屋内蛍光灯用
- ストロボ使用時
プリセットを作るコツ:
- 代表的な1枚を丁寧に補正
- 「プリセットとして保存」
- 同じ条件の写真に一括適用
- 微調整が必要な写真だけ個別対応
Imagen AIの「パーソナルプロファイル」
自分の編集スタイルをAIに学習させることができるサービスです。
仕組み:
- 過去に編集した2000枚以上の写真を提供
- AIがあなたの編集傾向を分析
- 新しい写真を自動で「あなた風」に編集
向いている人:
- 一定のスタイルで大量に納品する人
- 結婚式やイベント撮影がメインの人
- 編集のベースを任せて、仕上げに集中したい人
Imagen AIは1枚あたり約5円〜の従量課金制。大量に使うと費用がかさむため、月の枚数を見積もっておきましょう。AftershotやLightroomのサブスクリプションと比較検討することをおすすめします。
書き出しの最適化
書き出しプリセットを作っておく
納品先ごとに書き出し設定を変える必要がある場合、毎回設定するのは非効率。
Lightroomで作るべきプリセット:
- Web用(長辺2048px、sRGB、JPEG品質80)
- SNS用(長辺1080px、sRGB、JPEG品質85)
- 印刷用(フルサイズ、Adobe RGB、TIFF 16bit)
- クライアント納品用(長辺3000px、sRGB、JPEG品質90)
フォルダ構造の自動化
書き出し時に自動でフォルダを作成できます。
例: 日付+イベント名で自動整理
/納品/2025-12-10_田中様挙式/
├── Web用/
├── 印刷用/
└── SNS用/
Lightroomの書き出しダイアログで「サブフォルダーに格納」にチェックを入れ、フォルダ名を設定しておけば、毎回手動で作る必要がなくなります。
プロが実践するワークフロー例
ウェディングフォトグラファーの場合
撮影当日: 3000枚撮影
翌日:
- Photo Mechanicで取り込み(30分)
- Aftershootでカリング(15分)
- 採用写真をLightroomにインポート(500枚、20分)
2日目:
- 代表カットにプリセット適用(30分)
- 同期で一括補正(30分)
- 個別調整が必要な写真を補正(2時間)
3日目:
- 最終チェック(1時間)
- 書き出し(30分)
- 納品
合計作業時間: 約6〜7時間(3日分散)
従来のワークフローなら15〜20時間かかる作業が、半分以下になります。
イベントカメラマンの場合
撮影: 5000枚
- 撮影後すぐにAftershotでカリング開始
- 移動中に処理完了(約20分)
- 事務所に戻ったらLightroomで編集
- 翌日納品
撮影当日に納品できるんですか?
急ぎの案件では当日納品もあります。AIカリング+プリセット適用+最小限の個別調整という流れなら、撮影から6時間後に納品することも可能です。ただし、品質とのバランスは常に意識してください。
よくある失敗と対策
失敗①: AIを過信しすぎる
AIカリングは万能ではありません。「感情的に大切なカット」は見逃すことがあります。
対策: AIが落とした写真もざっと確認する。特に「表情」や「瞬間」の写真は見落としがち。
失敗②: プリセットを使いすぎて単調になる
同じプリセットを全カットに適用すると、メリハリがなくなります。
対策: 基本補正はプリセット、仕上げは個別調整。特にメインカットは丁寧に。
失敗③: 書き出し中に他の作業をして失敗
大量書き出し中にPCがフリーズ、強制再起動で最初からやり直し…
対策: 書き出しは夜間に実行。または小分けにして途中保存できる状態で進める。
まとめ
| ポイント | 内容 |
|---|---|
| カリング | AIツール(Aftershoot等)で自動化 |
| 基本補正 | プリセット+一括適用 |
| 個別調整 | メインカットに集中 |
| 書き出し | プリセットで設定を統一 |
この記事のポイント:
- カリングと基本補正の自動化が効率化の鍵
- AIカリングは90%以上の精度、残りを人間がチェック
- Photo MechanicとLightroomの組み合わせも有効
- プリセットは「作って終わり」ではなく継続的に改善
- 品質とスピードのバランスを常に意識
大量納品は「根性」ではなく「仕組み」で乗り越える時代です。自分のワークフローを見直し、効率化できるポイントを探してみてください。