「レタッチしていたら、戻れなくなってしまった」——こんな経験はありませんか?
プロのレタッチャーは、いつでもやり直しが効く「非破壊編集」を徹底しています。その基本となるのが「レイヤー」と「マスク」です。
非破壊編集とは
非破壊編集って、何がいいんですか?
元の画像データを直接変更せず、いつでも元に戻せる編集方法のことです。クライアントから「やっぱり前の方が良かった」と言われても、すぐに対応できます。
破壊編集の問題点
- 消しゴムで消した部分は復元できない
- 色調補正を直接適用すると、後から微調整できない
- 保存して閉じたら、ヒストリーも消える
非破壊編集のメリット
- いつでも元に戻せる
- 後から微調整が可能
- 複数のバージョンを比較できる
- クライアントの修正依頼に柔軟に対応
レイヤーの基本
レイヤーとは
レイヤーは、透明なシートを重ねるイメージです。
一番下に元画像を置き、その上に調整用のレイヤーを重ねていきます。各レイヤーは独立しているため、一つを変更しても他に影響しません。
レイヤーの種類
| レイヤーの種類 | 用途 |
|---|---|
| 通常レイヤー | 画像、ペイント |
| 調整レイヤー | 色調補正(非破壊) |
| テキストレイヤー | 文字 |
| スマートオブジェクト | 非破壊の変形・フィルター |
調整レイヤーを使う
色調補正は、直接画像に適用するのではなく、調整レイヤーを使うのがプロの基本です。
作り方
- レイヤーパネル下部の「調整レイヤー」アイコンをクリック
- 「トーンカーブ」「色相・彩度」などを選択
- 元画像の上に調整レイヤーが作成される
調整レイヤーなら、後からいつでも数値を変更できます。
レイヤーマスクの基本
マスクって何ですか?消しゴムと何が違うんですか?
消しゴムは「削除」、マスクは「隠す」という違いがあります。マスクで隠した部分は、いつでも戻せるんです。
マスクの原理
レイヤーマスクは、白と黒で「見える・見えない」を制御します。
- 白 = 見える(表示)
- 黒 = 見えない(非表示)
- グレー = 半透明
「白は味方、黒は隠す」と覚えましょう。白い部分が見えて、黒い部分が隠れます。
レイヤーマスクの作成方法
- マスクをかけたいレイヤーを選択
- レイヤーパネル下部の「マスク追加」アイコンをクリック
- 白いマスクが追加される(全体が見える状態)
マスクの編集
- レイヤーパネルでマスクのサムネールをクリック
- ブラシツールを選択
- 黒で塗ると隠れる、白で塗ると見える
実践:部分的な明るさ調整
手順
調整レイヤーを作成
- 「トーンカーブ」調整レイヤーを追加
- 画面全体を明るくする
マスクを黒で塗りつぶす
- マスクを選択
- 編集 → 塗りつぶし → 黒
- 調整効果が全体に隠れる
白いブラシで塗る
- 明るくしたい部分だけ白いブラシで塗る
- 塗った部分だけ明るくなる
この方法なら、後から「もう少し広い範囲を明るくしたい」という要望にも、マスクを追加で塗るだけで対応できます。
消しゴムを使わない切り抜き
従来の方法(非推奨)
- 選択範囲を作成
- 選択範囲外を消しゴムで削除
→ 一度消したら戻せない
マスクを使う方法(推奨)
- 選択範囲を作成
- レイヤーマスクを追加
- 選択範囲外がマスクで隠れる
→ いつでも修正可能
プロの現場では、消しゴムツールはほとんど使いません。切り抜きはすべてマスクで行います。境界線の微調整も、マスクならブラシで簡単にできますからね。
スマートオブジェクトの活用
スマートオブジェクトとは
レイヤーを「スマートオブジェクト」に変換すると、拡大縮小を繰り返しても画質が劣化しない状態になります。
変換方法
- レイヤーを右クリック → 「スマートオブジェクトに変換」
メリット
- 拡大縮小しても元の画質を保持
- フィルターを「スマートフィルター」として非破壊で適用
- 元データを保護
デメリット
- ファイルサイズが大きくなる
- 直接ブラシで描けない(編集時はダブルクリックで開く)
レタッチ作業のレイヤー構成例
プロのレタッチでは、以下のようなレイヤー構成が一般的です。
├── 最終調整(トーンカーブ)
├── 色補正(色相・彩度)
├── 肌修正レイヤー
├── ゴミ取りレイヤー
├── 元画像(スマートオブジェクト)
└── 背景(元画像のバックアップ)
このように整理しておくと、後から特定の修正だけをやり直すことが簡単にできます。
よくある失敗と対策
失敗1:マスクではなく画像を編集していた
症状:ブラシで塗っても黒い線が描かれるだけ
対策:レイヤーパネルで、マスクのサムネール(白い四角)をクリックしてから編集
失敗2:調整レイヤーが下のレイヤーに影響しない
症状:トーンカーブを作ったのに、画像が変わらない
対策:調整レイヤーが画像レイヤーの上にあるか確認
失敗3:レイヤーが多すぎて混乱
症状:どのレイヤーが何か分からない
対策:レイヤーに名前をつける習慣を
まとめ
レイヤーとマスクは、レタッチの基本中の基本です。
- 非破壊編集:いつでも元に戻せる編集方法
- 調整レイヤー:色調補正を非破壊で行う
- レイヤーマスク:白で表示、黒で非表示
- 消しゴムは使わない:切り抜きはマスクで
- スマートオブジェクト:変形・フィルターを非破壊で
これらをマスターすれば、クライアントの修正依頼にも柔軟に対応でき、効率的なレタッチができるようになります。