レタッチを外注するとき、NDA(秘密保持契約)を締結していますか?
「相手を信頼しているから大丈夫」
「小規模な案件だから必要ない」
そう思っていると、取り返しのつかないトラブルに発展する可能性があります。
この記事では、レタッチ外注におけるNDAの重要性と、具体的に何を盛り込むべきかを解説します。
NDA(秘密保持契約)とは
基本的な意味
NDAは「Non-Disclosure Agreement」の略で、日本語では「秘密保持契約」と呼ばれます。
一言で言うと:「受け取った情報を外部に漏らしません」という約束を、契約書として書面化したものです。
なぜレタッチ外注で必要なのか
レタッチを外注するということは、画像データを外部の人間に渡すということです。
その画像には、機密性の高い情報が含まれている可能性があります:
- 芸能人・著名人の未公開写真
- 発売前の新商品
- 企業の内部資料
- 個人のプライベート写真
でも、レタッチの人が悪用するなんてことあるんですか?
意図的な悪用だけでなく、「うっかり」のリスクもあります。SNSに作業サンプルとして載せてしまった、という事故は実際に起きています。
NDAがないとどうなる?
実際に起きたトラブル例
芸能事務所から依頼を受けたレタッチ会社が、作業を外部のフリーランスに再委託。そのフリーランスが、未公開の芸能人写真をSNSに「作業実績」として投稿してしまった。
発売前の新商品画像をレタッチ外注。外注先がポートフォリオに使用し、競合他社に情報が漏れてしまった。
NDAがないと…
- 法的な責任追及が難しい:契約がなければ「約束していない」と言い逃れされる可能性
- 損害賠償の根拠がない:被害を受けても、どこまで請求できるか曖昧
- 再発防止策が取れない:契約上の義務がなければ、改善を強制できない
NDAに盛り込むべき内容
1. 秘密情報の定義
何が「秘密情報」に該当するかを明確にします。
| 秘密情報に含めるべきもの |
|---|
| 受け渡した画像データすべて |
| 画像に写っている人物・商品の情報 |
| 依頼内容・発注元の情報 |
| 料金・取引条件 |
「すべての情報」じゃダメなんですか?
曖昧すぎると、いざというとき「それは秘密情報に該当しない」と言われるリスクがあります。具体的に列挙しておくのがベストです。
2. 秘密保持義務
外注先が守るべき義務を記載します。
- 第三者に開示しないこと
- 業務目的以外に使用しないこと
- SNS・Webサイトへの掲載禁止
- ポートフォリオへの使用禁止
3. 再委託の制限
これは見落としがちですが、非常に重要です。
外注先がさらに別の人に作業を再委託した場合、秘密情報の管理が難しくなります。
- 再委託を禁止する
- または、再委託する場合は事前承諾を必要とする
- 再委託先にも同等のNDAを締結させる義務
4. データの取り扱い
作業完了後のデータ管理について規定します。
- 作業完了後のデータ削除義務
- 削除したことの報告義務
- バックアップの禁止
レタッチ完了後、外注先のPCにデータが残ったままだと、将来的な流出リスクが消えません。「作業完了後7日以内にすべてのデータを削除すること」など、具体的な期限を設けましょう。
5. 契約期間
秘密保持義務がいつまで続くかを明記します。
一般的には「契約終了後3〜5年間」とすることが多いですが、内容によっては「永久」とすることもあります。
6. 違反時のペナルティ
万が一、秘密情報が漏洩した場合の取り決めです。
- 損害賠償責任
- 具体的な賠償額(または算定方法)
- 契約解除の権利
どんな案件でNDAが必要?
必須の案件
| 案件の種類 | 理由 |
|---|---|
| 芸能・タレント写真 | 肖像権・プライバシー |
| 発売前の新商品 | 競合への情報漏洩防止 |
| 企業の内部資料 | 機密情報保護 |
| 個人の顔写真 | プライバシー保護 |
あった方がいい案件
- EC商品写真(オリジナル商品の場合)
- ウェディング・記念写真
- 広告・マーケティング素材
なくても問題ないケース
- 風景写真など、機密性のない画像
- すでに公開されている素材のレタッチ
- 個人のSNS用写真(本人がOKの場合)
うちの会社は芸能関係じゃないから、NDAは要らないですかね?
「要らない」と思い込むのは危険です。社員の顔写真、オフィスの内部、新商品…意外と機密情報は多いものです。迷ったらNDAを締結しておいた方が安全ですよ。
NDAの締結方法
フリーランスに依頼する場合
クラウドソーシングで個人に依頼する場合、NDAの締結を渋る人もいます。
対処法:
- プラットフォームの「秘密保持」機能を活用
- シンプルなNDA雛形を用意して署名してもらう
- NDA締結を拒否する相手には依頼しない
専門会社に依頼する場合
まともなレタッチ会社であれば、NDAの締結は当然のこととして対応してくれます。
- 会社側がNDA雛形を持っていることが多い
- 自社のNDAフォーマットを使うことも可能
- 契約書の内容を確認してから署名する
「うちはNDAなしでやっています」という会社は、機密管理の意識が低い可能性があります。外注先選びの判断材料にしてください。
NDA雛形の入手方法
NDAは弁護士に作成してもらうのがベストですが、簡易的なものであれば雛形を活用できます。
入手先
- 経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」に雛形あり
- 弁護士監修の契約書テンプレートサービス
- 取引先が持っているNDA雛形を流用
注意点
雛形をそのまま使うと、自社の業務に合っていないことがあります。特に以下の点は確認しましょう:
- 秘密情報の定義が自社の案件に合っているか
- データ削除の期限は適切か
- 賠償額の上限は妥当か
まとめ
レタッチ外注におけるNDAのポイント:
- 画像データには機密情報が含まれることを認識する
- 「信頼しているから大丈夫」は危険:うっかり流出もある
- 再委託の制限を必ず盛り込む
- データ削除義務を明記する
- NDAを嫌がる相手には依頼しない
NDAは「相手を信用していない」という意味ではありません。むしろ、お互いの責任範囲を明確にすることで、安心して仕事ができる関係を築くためのものです。
特に芸能・広告関係の案件では、NDAの締結は業界の常識です。外注先選びの際は、NDAへの対応姿勢も判断材料にしてください。