レタッチの作業、いつも行き当たりばったりになっていませんか?
プロのレタッチャーは、決まった「流れ」を持っています。どの写真でも同じ順序で作業することで、効率が上がり、品質も安定します。
この記事では、LightroomからPhotoshopへの連携を含む、プロの実践的なワークフローを解説します。

レタッチワークフローの全体像
まず、プロのレタッチワークフローの全体を見てみましょう。
基本の流れ
- セレクト(Lightroom)— 良い写真を選ぶ
- RAW現像(Lightroom)— 基本的な補正
- 細部のレタッチ(Photoshop)— 肌補正、合成など
- 最終調整(Photoshop/Lightroom)— 色味、トーンの仕上げ
- 書き出し(Lightroom)— 納品用ファイルの生成
LightroomとPhotoshop、両方使うんですか?
はい。大量の写真を効率的に処理するのがLightroom、1枚を丁寧に仕上げるのがPhotoshop。それぞれの得意分野を活かして使い分けます。
なぜこの順序なのか
- 効率の問題: 全写真を1枚ずつPhotoshopで開くのは非効率
- 品質の問題: RAW現像後にレタッチする方が画質が良い
- 管理の問題: Lightroomで一元管理すると整理しやすい
Phase 1: セレクト(Lightroom)
セレクトの重要性
撮影した写真すべてをレタッチするのは現実的ではありません。
「どの写真をレタッチするか」を決めるセレクト作業が、全体の効率を左右します。
セレクトの流れ
- ざっくり見る — グリッド表示で全体を眺める
- 明らかなNGを除外 — ピンボケ、ブレ、構図ミスなど
- 候補を絞る — フラグやレーティングで候補をマーク
- 最終選定 — 比較表示で最終候補を決定
便利なショートカット
| ショートカット | 機能 |
|---|---|
| P | 採用フラグ |
| X | 不採用フラグ |
| U | フラグ解除 |
| 1〜5 | レーティング(星) |
| N | 比較表示 |
セレクトのコツ
- 1回目は感覚で: 「いい」と思った写真にどんどんフラグを
- 2回目で絞る: 採用フラグの中から、さらに厳選
- 迷ったら外す: 迷う写真は使わない方が良いことが多い

Phase 2: RAW現像(Lightroom)
セレクトが終わったら、選んだ写真をRAW現像します。
現像の順序
- レンズ補正 — 歪み、周辺光量落ちを補正
- ホワイトバランス — 色温度、色かぶり補正
- 露出調整 — 全体の明るさ
- トーン調整 — ハイライト、シャドウ、白黒レベル
- コントラスト/明瞭度 — メリハリをつける
- 色調整 — HSL、カラーグレーディング
- 部分補正 — マスクを使った部分的な調整
複数写真への一括適用
同じ撮影条件の写真は、設定を一括で適用できます。
- 1枚を完璧に調整
- 他の写真を選択
- 「設定を同期」
これで数十〜数百枚を一瞬で処理できます。
Lightroom での現像は、完璧を目指さなくてOK。80%くらいの仕上がりで十分です。残りの20%はPhotoshopで仕上げます。完璧を求めすぎると時間がかかりすぎます。
Phase 3: LightroomからPhotoshopへ
細部のレタッチが必要な写真は、Photoshopに送ります。
送り方
Lightroomで写真を選択 → 右クリック →「他のツールで編集」→「Adobe Photoshopで編集」
送る際の設定
ダイアログが表示されます:
| オプション | 推奨設定 |
|---|---|
| Lightroom調整を含めたコピーを編集 | ○(通常はこれ) |
| 元画像を編集 | RAW設定を変えたくない場合 |
| コピーを編集 | Lightroom調整なしで開く場合 |
- ファイル形式: TIFF(最高画質)またはPSD
- カラースペース: ProPhoto RGB(広色域)またはAdobe RGB
- ビット数: 16bit(階調を保持)
「Lightroom調整を含めたコピーを編集」を選べば、RAW現像の結果をそのままPhotoshopで開けます。編集が終わったら保存すれば、自動でLightroomに戻ります。
Phase 4: Photoshopでのレタッチ
Photoshopでは、Lightroomではできない細かい作業を行います。
Photoshopでやること
- 肌のレタッチ(周波数分離、ドッジ&バーン)
- 不要物の高度な除去
- 合成作業
- 背景の差し替え
- 細部の調整
レイヤー構造の基本
プロは決まったレイヤー構造で作業します。
├─ 最終調整グループ
│ ├─ トーンカーブ(最終)
│ └─ 色相・彩度(最終)
├─ レタッチグループ
│ ├─ ドッジ&バーン
│ ├─ 周波数分離(高周波)
│ └─ 周波数分離(低周波)
├─ クリーンアップグループ
│ └─ スポット修正レイヤー
└─ 背景(元画像)
非破壊編集を徹底
- 元画像は直接編集しない
- 調整は調整レイヤーで
- レタッチは新規レイヤーで
- 必要に応じてスマートオブジェクト化

Phase 5: 最終調整と書き出し
Photoshopでの保存
Photoshopでの編集が終わったら、保存(Ctrl/Cmd + S)するだけ。
ファイルは自動的にLightroomのライブラリに反映されます。
Lightroomでの最終確認
Photoshopから戻った写真は、Lightroomで最終確認。
- 全体のトーンを確認
- 他の写真と並べて比較
- 必要に応じて微調整
書き出し設定
用途に応じた書き出し設定:
Web用:
- 形式:JPEG
- 品質:80〜90%
- サイズ:長辺2000px程度
- カラースペース:sRGB
印刷用:
- 形式:TIFF
- カラースペース:Adobe RGB
- サイズ:フルサイズ
納品用アーカイブ:
- 形式:TIFF(レイヤー維持の場合はPSD)
- 最高品質
- フルサイズ
ワークフローを効率化するコツ
コツ1: アクションを活用
繰り返す作業はPhotoshopのアクションで自動化。
- 周波数分離のセットアップ
- ドッジ&バーンレイヤーの作成
- 書き出し用のリサイズ
コツ2: プリセットを活用
Lightroomのプリセットで現像を効率化。
- 撮影環境別の基本設定
- カラーグレーディング
- 書き出し設定
コツ3: ショートカットを覚える
マウス操作を減らすことで、作業速度が格段に上がります。
正直、ショートカットを覚えるのが一番の時短です。最初は面倒でも、1週間も使えば体が覚えます。投資対効果は抜群。
コツ4: テンプレートPSDを用意
よく使うレイヤー構造をテンプレートとして保存しておくと、毎回同じ構造で作業できます。
ジャンル別ワークフロー例
ポートレートの場合
- Lightroom: 基本現像、肌色調整
- Photoshop: 周波数分離で肌レタッチ、ドッジ&バーンで立体感
- Photoshop: 背景ぼかし、髪の毛の処理
- Lightroom: 最終的な色味調整、書き出し
商品撮影の場合
- Lightroom: ホワイトバランス統一、一括現像
- Photoshop: 背景切り抜き、影の作成
- Photoshop: 不要な傷やホコリ除去
- Lightroom: 形式変換、一括書き出し
風景写真の場合
- Lightroom: RAW現像、空と地面の部分補正
- Photoshop: 不要物除去、HDR的な処理
- Lightroom: 最終調整、書き出し
まとめ
プロのレタッチワークフローは、効率と品質を両立させる「流れ」です。
基本の5ステップ:
- セレクト(Lightroom)— 良い写真を選ぶ
- RAW現像(Lightroom)— 基本補正、80%の仕上げ
- レタッチ(Photoshop)— 細部の作業
- 最終調整(Lightroom/Photoshop)— 仕上げ
- 書き出し(Lightroom)— 用途に合わせた出力
効率化のポイント:
- Lightroomで大量処理、Photoshopで細部処理
- アクションとプリセットを活用
- ショートカットを覚える
- テンプレートで作業を標準化
「流れ」を決めることで、迷いがなくなり、作業が速くなります。
最初は時間がかかっても、同じ流れを繰り返すことで、どんどん速くなります。まずはこの基本フローを自分のものにして、そこから自分なりにカスタマイズしていきましょう。