肌レタッチで一番難しいのは、キレイにしつつも自然さを保つことです。
やりすぎるとプラスチックのような不自然な肌に、控えめすぎると効果が分からない。このバランスを取るために、プロは「周波数分離」と「ドッジ&バーン」というテクニックを使います。
肌レタッチの基本的な考え方
肌レタッチって、シミやニキビを消すだけじゃないんですか?
それは肌レタッチの一部です。プロの肌レタッチは、肌の「色ムラ」と「テクスチャ」を分けて考えます。色は整えつつ、肌の質感は残す——これが自然な仕上がりの秘訣です。
肌レタッチの2つの要素
- 色・トーン — シミ、赤み、くすみ、色ムラ
- テクスチャ — 毛穴、産毛、肌のキメ
この2つを別々に処理することで、自然な仕上がりが実現できます。
やってはいけないこと
- ぼかしツールで肌全体をぼかす → ツルツルの不自然な肌に
- スタンプツールで塗りつぶす → のっぺりした質感に
- 過度な美肌フィルター → AIっぽい人工的な見た目に
周波数分離とは
周波数分離って難しそう...
名前は難しそうですが、考え方はシンプルです。写真を「色・トーン」と「テクスチャ」の2つに分けて、それぞれ別々に編集する方法です。
周波数分離の原理
画像を「高周波」と「低周波」の2つのレイヤーに分離します。
| 周波数 | 含まれる情報 | 編集内容 |
|---|---|---|
| 高周波 | テクスチャ、細部 | 毛穴、ニキビ跡の凹凸 |
| 低周波 | 色、トーン、大きな形 | シミ、色ムラ、影 |
周波数分離の作り方(Photoshop)
1. レイヤーを2つ複製
- 元画像を2回複製
- 上を「高周波」、下を「低周波」と名前を付ける
2. 低周波レイヤーを作成
- 低周波レイヤーを選択
- フィルター → ぼかし → ぼかし(ガウス)
- 半径は肌の質感が消える程度(5〜15px程度)
3. 高周波レイヤーを作成
- 高周波レイヤーを選択
- イメージ → 画像操作
- レイヤー:低周波、描画:減算、スケール:2、オフセット:128
- 描画モードを「リニアライト」に変更
周波数分離の手順は毎回同じなので、Photoshopのアクションに登録しておくと、ワンクリックで適用できます。
周波数分離を使った編集
低周波レイヤーで
- スタンプツールやブラシで色ムラを整える
- 肌の色だけが変わり、テクスチャは維持される
高周波レイヤーで
- スタンプツールでニキビ跡の凹凸を修正
- テクスチャだけが変わり、色は維持される
ドッジ&バーン(Dodge & Burn)
ドッジ&バーンとは
ドッジ(覆い焼き)は明るくする、バーン(焼き込み)は暗くする技法です。
肌の明暗を整えることで、滑らかで立体感のある肌を作り出します。
ぼかしとは何が違うんですか?
ぼかしは「質感を消す」、ドッジ&バーンは「明暗を整える」です。ドッジ&バーンなら肌の質感を保ったまま、色ムラだけを自然に均一化できます。
非破壊でのドッジ&バーン
1. グレーレイヤーを作成
- 新規レイヤーを作成
- 編集 → 塗りつぶし → 50%グレー
- 描画モードを「オーバーレイ」または「ソフトライト」に
2. ブラシで塗る
- 白いブラシ → 明るくなる(ドッジ)
- 黒いブラシ → 暗くなる(バーン)
- 不透明度は5〜15%程度の低い値で
3. 細かく塗り重ねる
- 暗い部分を白で明るく
- 明るすぎる部分を黒で抑える
- 少しずつ塗り重ねて均一化
ドッジ&バーンのコツ
- ブラシサイズ:修正したい部分より少し大きめ
- 不透明度:低く設定(5〜15%)
- 塗り方:一度で仕上げず、何度も塗り重ねる
- 確認:白黒表示にすると明暗が分かりやすい
チャンネルパネルでRGBを非表示にし、1つのチャンネルだけ表示すると、肌の明暗ムラが見やすくなります。
実際のワークフロー
プロの肌レタッチ手順
大きなゴミ・傷の除去
- スポット修復ブラシでニキビ、傷を除去
周波数分離
- 低周波で色ムラを整える
- 高周波でテクスチャの気になる部分を修正
ドッジ&バーン
- 細かい明暗ムラを整える
- 立体感を調整
全体の色調整
- トーンカーブで全体のコントラスト
- 色相・彩度で肌色の微調整
最終確認
- 縮小表示で全体のバランスを確認
- 不自然な部分がないかチェック
どこまでレタッチすべきか
やりすぎると不自然になりますよね?どこまでやればいいんですか?
用途によります。ファッション広告ならしっかり、ポートレートなら控えめに。「その人らしさ」を消さないことが大切です。
用途別の目安
| 用途 | レタッチの程度 |
|---|---|
| ファッション広告 | しっかり(ただし自然に) |
| 化粧品広告 | 高度(肌の美しさが商品) |
| ポートレート | 控えめ(個性を残す) |
| 就活写真 | 軽め(清潔感重視) |
| SNS用 | 好みに応じて |
やりすぎのサイン
- 毛穴が完全に消えている
- 肌がプラスチックのようにツルツル
- 顔の立体感がなくなっている
- その人だと分からないレベル
まとめ
プロの肌レタッチは、「ぼかす」のではなく「整える」アプローチです。
- 周波数分離:色とテクスチャを分けて編集
- ドッジ&バーン:明暗を整えて均一化
- ポイント:質感を残しつつ、色ムラだけを修正
- やりすぎ注意:不自然さは技術力のなさの表れ
これらのテクニックをマスターすれば、自然で美しい肌レタッチができるようになります。