「レタッチ(Retouch)」という言葉は、英語で「もう一度触る」「手を加えて仕上げる」という意味があります。日本語では「写真修整(しゅうせい)」と書きます。
つまり、撮った写真にあとから手を加えて"整える"という意味です。
よく「修正」や「補正」という言葉が使われますが、これらは少し意味が違います。
- 「修正」は"間違いを直す"
- 「補正」は"ズレを補う"
- 「レタッチ(修整)」は"美しく整える"
つまり、レタッチとは「悪いところを直す作業」ではなく、正しいものをより魅力的に磨き上げるための仕事なんです。
レタッチって、いわゆる"加工"と同じ意味じゃないんですか?
いい質問ですね。"加工"は、写真を大きく変えること。たとえば目を大きくしたり、顔を細くしたりと、現実から離れた見た目にすることです。それに対して"レタッチ"は、もともとの魅力を自然に引き出す作業なんです。
つまりレタッチとは「別人にするための加工」ではなく、「本来の美しさを最大限に引き出す」ための専門的な写真編集なんです。
レタッチの種類とは?
ひとくちに「レタッチ」と言っても、実はその内容は撮影ジャンルによって大きく異なります。
① 人物レタッチ(ポートレート)
肌を綺麗に見せたいんですけど、加工っぽくなるのは嫌なんですよね。
その気持ち、すごく分かります。レタッチの目的は"別人にする"ことじゃなくて、"自然に魅力を引き出す"ことなんです。
人物レタッチの主な調整ポイント:
- 肌のトーン・質感の調整(自然に明るく)
- クマやニキビ跡の軽い除去
- 髪の乱れやほこりの除去
- 表情の印象を整える(口角・目元など)
"何を直したのか分からないけど、なんか良い"という状態が、最高のレタッチです。
② 商品レタッチ(プロダクト・EC・広告写真)
商品レタッチは、ただ「綺麗に見せる」だけの作業ではありません。特にECサイトや広告では、色の再現性と質感の表現が命です。
ECサイトの商品写真が、実物よりもくすんで見えちゃうんです。色も少し違っていて、返品につながることもあって困っていて…。
それはよくある問題ですね。照明やカメラの設定によって、撮影時の色が実物と微妙にズレることは珍しくありません。
| 調整項目 | 目的・効果 |
|---|---|
| 色味補正 | 商品本来の色を正確に再現 |
| 反射・ムラ補正 | 光の映り込みを整えて質感を出す |
| 背景調整 | 白背景などを純白に補正し商品を引き立てる |
| 汚れ・ホコリ除去 | 撮影時に入り込んだ不要要素を削除 |
| トーンバランス調整 | シリーズ商品間で統一感を出す |
③ 建築・空間レタッチ(不動産・ホテル・店舗など)
建築・空間レタッチは、写真の中で「空気感」をコントロールする仕事です。
物件の写真を撮ったんですが、部屋が実際より暗くて狭く見えちゃって…サイトに載せてもあまり反応がないんです。
それは不動産・ホテル系でよくある課題ですね。カメラの露出や照明の色味によって、実際よりも圧迫感のある写真になってしまうことがあります。
| 調整項目 | 目的・効果 |
|---|---|
| 露出・コントラスト補正 | 空間全体を明るくしつつ奥行きを維持 |
| 歪み補正 | レンズ特性による傾きや歪みを修正 |
| ホワイトバランス調整 | 照明の色かぶり(黄ばみ・青み)を除去 |
| ゴミ・汚れの除去 | 床や壁などの不要な汚れを消去 |
| 空や窓の合成 | 外光を調整し、空間の明るさを演出 |
④ 合成・広告レタッチ(イメージビジュアル・ブランド制作)
合成・広告レタッチは、「現実には存在しない理想の世界をつくる」仕事です。
撮影した写真をもっと世界観のある感じにしたいんです。背景を差し替えたり、光を強調したりもできますか?
もちろん可能です。合成レタッチでは、複数の写真や素材を組み合わせて、構図・光・色を"デザインする"ことができます。
| 処理項目 | 内容・目的 |
|---|---|
| 複数画像の合成 | 背景・被写体・小物を統合し、理想の構図に再構築 |
| 光・影の整合 | 合成部分の照明方向や質感を自然に合わせる |
| カラーデザイン | ブランドトーンや印象に合わせて色彩を設計 |
| 質感レタッチ | 金属・布・肌・水など素材感の表現を強調 |
| 空気感の演出 | 霞や光の粒、反射などで雰囲気をプラス |
レタッチの種類と目的まとめ
| レタッチの種類 | 主な目的 | 特徴 |
|---|---|---|
| 人物レタッチ | 印象を整え、魅力を引き出す | 自然な肌補正・光・表情の調整が中心 |
| 商品レタッチ | 実物の色・質感を正確に伝える | カラーマネジメント重視、統一感が鍵 |
| 建築・空間レタッチ | 空間の広さ・明るさ・心地よさを表現 | 露出や歪みの補正、光の調整が重要 |
| 合成・広告レタッチ | 理想的な世界観・印象をデザインする | 構図・光・色・感性を融合した表現 |
なるほど、レタッチって種類ごとに目的がまったく違うんですね。なんとなく"Photoshopで綺麗にする"くらいにしか思ってませんでした。
そうなんです。「誰のために」「どんな印象を与えたいか」でアプローチが変わります。人物なら"自然さ"、商品なら"正確さ"、建築なら"空気感"、広告なら"世界観"。それぞれの目的を理解してレタッチをすることが大切なんです。
つまり、レタッチとは単なる「加工」ではなく、被写体の魅力やメッセージを伝えるための設計作業です。